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天寿がん

「天寿がん」とは、「さしたる苦痛なしに、たかも天寿を全うしたように人を死に導く超高齢者のがん」とおっしゃるのは、この考えを提唱された癌研究所所長の北川知行さんです。

北川さんに天寿がんの考えやその考えの動機などをうかがいました。「私達は生きている限り、環境中や食物中のさまざまながん原因子に取り囲まれて生活しています。また、体内では生理的な代謝で、活性酸素や一酸化窒素などDNAを傷つける物質がつくりだされています。つまり、私達の体は常にがんを引き起こす遺伝子変異の機会にさらされているわけです。

多くのがんはいくつかの遺伝子の変異が蓄積した結果発生するので、長生きすればするほど、がんにかかる危険性は高くなります。すなわち、高齢者の癌は長生きの”税金”のようなもので、ある程度までは避けられないものと考えられます。実際、高齢者の約1/3はがんで死亡しております。

ところで、超高齢者のがんのなかには自覚症状がなく、ご本人も病気と気が付かぬまま亡くなっていくケースもあります。また、たとえがんと判明しても、さほどの苦しみも伴わずに、自然死に導かれる場合もあります。

このような場合は、そのがんを素直に受け入れ、攻撃的な治療や無意味な延命治療を行わないほうがよいのではないか、と考えたのです」


ここでいう超高齢者とは、一応、男性85歳、女性90歳以上の人たちとされますが、もちろん老化には個人差があります。北川さんが、天寿がんを着想したきっかけは、以下のようなものです。

「今から35年ほど前、私が東京大学医学部にいたころに、98歳で眠るように亡くなった男性を解剖する機会がありました。その方は生来たいへん健康だった方で、”もし死亡したら、解剖して健康の秘密を明らかにしてほしい”と遺言されていたのです。

ところが、解剖してみると、胃の噴門近くに直径10cmほどのがんがありました。このがんのため、食が細くなり衰弱死したのですが、しかし、この方はがんで苦しむことも無く、がんがあることも知らずに亡くなったのです。

がんではあっても、この方のような経過をたどるのなら、”天寿をまっとうしたも同然”と当時強く思ったものです。

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