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◇泣いて−−悩んで−−笑って。
タレントの山田邦子さん(47)が乳がんの摘出手術を受けたことを公表した。現在は放射線治療を受けている。乳がんの国内の新規患者数は年々増加し、年間4万人を超えると言われている。「あらためて、本当にすまなかった、自分の体」と語る邦子さんに習おう。【本橋由紀】
◇疑わしきは受診、健康は自分で守る!
◇若い時は超音波検査、40歳過ぎたらマンモグラフィーと両方を
邦子さんが乳がんを見つけたきっかけはテレビの健康番組の収録だった。「ね〜。これが2回目で、2回ともレッドゾーン。暴飲暴食、喫煙、お酒もとっても飲む、ちょっと肥満であるとか、親類に(がん経験者が)いると……いろんなことからなりやすいと言われました」
リスクはどう見分けるのか。癌(がん)研有明病院(東京都江東区)の岩瀬拓士乳腺科部長は「たばこはどのがんにも良くないが、大勢の人を対象にした疫学調査によると、乳がんと最も関係のあるのは家族歴、つまり血縁者に患者さんがいるかどうか」と説明する。ずばり乳がんかどうかが問われるのだという。
邦子さんは収録日の夜、自宅でおっぱいを触った。番組では「肉まんに埋め込まれた梅干しの種」と教えられた。「ちょうど手の甲の中指と薬指の関節の間が似ている。これにもうちょっと肉がついているかな。それがごにょごにょ、ぐりぐりと、右の胸に一粒、ぼこっとあったんです。まさかと思いたいが、これはがんだなあと直感しましたね。うわー絶対そうだ。夢であってくれと……」。その夜は、約2時間おきに目がさめ、胸を触った。そのたびにしこりを感じ、落ち込んだという。

翌朝、スタッフを通じて医師に連絡し、病院を訪ねた。マンモグラフィー(乳房エックス線画像診断)を受けると、影があったが、はっきりしなかった。
岩瀬部長によると、女性の乳腺は年齢と共に脂肪に置き換わる。「マンモグラフィーでは乳腺は白く脂肪は黒く写ります。乳腺がたっぷり残っている若い人の場合、白く写るがんが乳腺に紛れてわかりにくいことがある。超音波検査ではがんが黒く写るので、若い人には超音波検査の方が見つけやすいようです」
邦子さんの場合は細胞を調べて診断が確定した。「今は笑えますけど、その時は死も考えた」。とはいえ、幸い早期発見だった。「先生に『よく見つけましたね、ご自分で? 本当に? すごいなあ』なんてほめられまして。私はラッキーなんだと勇気が出ました」
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三つの早期がんを2回の手術で摘出した。「手術に向けていろんな検査をして、説明も手術の流れ、内容、先生の腕前、術後、手術の大成功のパターンと大失敗のパターンまで。話を聞くうちに手術をするんだ、するんだって、覚悟していくんですね。何をしたかというと……」
こういう場合に何をするかで、性格や人生観が浮かび上がるようだ。
「もうこの肉体は変わってしまう、腕が上がらなくなるかも、この腕で今できることは? お掃除、大掃除だと思ったんです。私はできなくなってもやりたくなる性格だから、何もやり残したくなかった。庭の桜の木にはしごをかけてのぼり、のこぎりでギコギコと」。木の上の邦子さんを想像すると、ちょっぴり切なくなった。
「衣装や仕事の資料の整理整頓も。いらないものだらけでした。デビュー当時のものから自分の作品やステージで使った思い出の物まで取ってあったんですが、また作ればいいやって。人生観がとても変わったんだと思います」。処分品はトラックの荷台いっぱいになった。
「でも、手術が終わったらなんでもない、掃除とか全然できるじゃない。ハハハ。まっ、植木もきれいになりましたし、取ってあったぼろ布はぞうきんになって。スーパーのシャカシャカ袋も、もうもらわない。すてきなおうちになりました」
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邦子さんは公表前、親しい関係にある倍賞千恵子さんと小六禮次郎さん夫妻にしか知らせていなかった。「ご夫妻に支えていただきました。主人(番組制作会社社長の後藤史郎氏)がオロオロしていると、小六さんが『おれもそうだった』って。倍賞さんは夜でも朝でも、愚痴でも話してねって。傷口がきれいに縫えているとか、ご自分もうっ血したとか。先生がどれほど説明してくれても、患者は『もっと悪いんじゃないか』と思うんですね。でも、バランスを考えて自分で結論を出せました。だから私も次の人にはちゃんとしてあげなきゃ、と思います」
生活も変わった。「朝、ぴしゃっと起きるようになりました。前はもっちゃり起きていたんですが。今は汚いタンも変なせきも出ません」。モーニングコーヒーがおいしいものだということも知った。
「いかに夜の会が多いかということにことさら気がついて。油断すると毎日パーティー、それも午前2時、3時。これじゃあ体も壊します。あらためて本当に、すまなかった、自分のカラダ。ずっと健康だと思ってましたけど、もう中年、自分の体は自分で作って守らなきゃ。働くことをまじめに考えるようにもなりました。だらだらしてたわけじゃないけど、元気で働けるのはすばらしいって。親にもスタッフにも感謝しています」
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私たちは何もないと、生きていることや元気に動けることが「当たり前」だと思いがちだ。
でも、そうではない。「私もという方があまりにも多い。私も、娘も、母もって、びっくりしました」と邦子さん。
日本では毎年4万人以上が乳がんにかかると言われ、女性のがんでは最も多い患者数だ。 |
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「50代がピークですが、30代、40代にも多く、がんの中では働き盛りで子どもも幼い患者さんが多いため、社会的には大きな問題です」と岩瀬部長は話す。ただし、リンパ節に転移していない2センチ以下程度の早期発見なら9割が、全体でも7割が治る。乳がんの細胞はゆっくり大きくなるものが多く、2センチになるまでに約10年。定期的に検診を受けていれば早期に見つかる可能性は高い。若い時は超音波検査、40歳を過ぎたら1年に1回、マンモグラフィーと超音波を受けるといいそうだ。「欧米では亡くなる人は下降線です。検診で早く見つかるようになったことと、薬によく反応するためです。早期の場合は症状がないので検診を受けてください。疑わしい場合には検診ではなく、病院で受診して。健康は自分でお金を出して守るという意識が必要なのです」
忙しさにかまけて後回しにしがちだが、定期的な検診は大事だ。
「病気をしたことがないと無頓着で、ましてがんなんて自分はならないという、どこか変な自信みたいなものがありました。けど、なるんですよね」
邦子さんの言葉に、40代半ばに差し掛かった私は、思わずうなずいていた。
(毎日新聞 2007年7月2日より) |