「『標準治療』という言葉を多くの人が誤解してるんです」「それが、患者と医者の意思疎通を邪魔してる。別の言葉に変えられないのでしょうか」――。がん対策情報センター運営評議会ワーキンググループ(WG)の会議で、何人かの患者委員からこんな声が上がった。
このWGは昨年末、分かりやすい情報提供の手法を考えるため、患者・家族ら15人と国立がんセンター職員とで発足、私も参加している。
「標準治療」とは、英語の「スタンダード・セラピー」の訳で、大規模臨床試験で効果が証明された、その時点で最も成績の良い治療法のこと。だが、患者委員たちは「〈並の治療〉と捉(とら)えている人が少なくない」と口をそろえる。
うな重の「並」「上」「特上」にたとえると、「並」より「上」の治療を受けたいと思うのが人情だ。このため、本当は「上」にあたる標準治療を受けているのに、「並の治療では心配。新聞やテレビで紹介された〈最新治療〉が受けたい」という患者会への相談が多いという。〈最新〉と呼ばれる治療法は、研究中で、効果や安全性が科学的に証明されていないものだ。
こうした誤解の背景には、一般的な印象が強い〈標準〉より、特別な語感がある〈最新〉の方が良いはずだ、という思い込みがある。そんな言葉の響きが不信感につながっている現状は、患者にも医師にも不幸だ。これは、がんに限ったことではなく、アレルギー患者会の代表も、「私も誤解していたのよ。分かりにくいわ」と言う。
患者が誤解しがちな言葉は、このほかにもある。
「姑息(こそく)的治療」は、がんを治すことはできないまでも、つらい症状を緩和して、生活しやすくする治療のことを言う。例えば、病状が進んで根治が難しい胃がんでも、食事ができるような手術をすることなどで、「姑息」という語感は悪いが、患者から見ると大切な治療だ。
また、「医療用麻薬」は痛みを取り除くモルヒネなどのことだが、「麻薬」という言葉に抵抗があるためか、日本では使用量が少なく、痛み緩和の治療が進まない一因になっている。
こうした医学の世界で使われている言葉を、患者視点でわかりやすく言い換えることも、検討すべきだと思う。だが一方で、定着しつつあるのだから、本当の意味を知ってもらえばかまわない、という人もいる。皆さんはどう思われるだろうか。
(2007年2月9日 読売新聞)