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がん治療前の不妊対策

 
卵子凍結保存 子宝の道

 名古屋市の女子看護学校生(20)は、悪性リンパ腫(しゅ)になり、「治療で大量の抗がん剤を使う必要がある」と言われた。その影響で、将来、子供ができなくなる恐れがあるが、医師から「治療の前に卵子を採取して凍結保存する方法もある」と説明を受けた。不妊クリニックを紹介され、排卵誘発剤を使った後、未受精卵2個を採取し、凍結した。治療も無事成功し、「子供を持てるチャンスを残せて幸運だった」と話す。

 血病や悪性リンパ腫など血液のがんには、骨髄移植などの治療が行われる。その際、事前にがん細胞を退治するため、抗がん剤治療や全身の放射線照射を行う。その影響で卵巣や精巣の機能が失われ、不妊になることが多い。

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 男性の場合、精子を事前に凍結保存する方法が普及してきたが、女性の場合、卵子の採取や保存が難しく、凍結保存はほとんど行われてこなかった。がんが治っても、「不妊」という後遺症に悩む女性も少なくない。

 未受精卵は受精卵に比べてもろく、低温になると細胞内の水分が氷の結晶構造を作るために膨張し、細胞が壊れやすい。凍結しても、従来の方法では解凍後の卵子の生存率は約2割に過ぎず、体外受精で出産に至る確率はわずか1%程度とされていた。

 だが、未受精卵を凍結保存する新しい手法が開発され、注目されている。加藤レディスクリニック(東京・新宿)研究開発部長の桑山正成さんが開発した「ガラス化法」と呼ばれる凍結法だ。従来、動物の卵子凍結に使われていたが、6年前にヒトへの応用に成功。解凍後の未受精卵の生存率は98%に高まった。

 「ガラス化法」は、細胞内の水分を毒性のない特別な溶液に徐々に置き換え、氷の結晶を作らずに凍結させる。ガラスと似たような構造を持つことからこの名がついた。

 同クリニックでは、ガラス化保存した未受精卵29個を体外受精させ、すでに5人の子供が生まれた。いずれも不妊患者への一時的な措置として凍結されたもので、まだ白血病患者のケースはないが、桑山さんは「他の不妊治療施設にもノウハウを伝え、全国の白血病患者の要望に応えていきたい」と話す。

 ただ、卵子の採取には、月経開始から約10日間、排卵を誘発する薬物治療を続ける必要があり、病状が急激に進行した場合は実施が難しい。凍結保存した場合でも、体外受精で妊娠に至る率は一般に2〜3割と高くない。未受精卵の凍結保存で生まれた子供の健康に関する長期データもない。

放射線遮断も

 そこで、別の方法も試されている。放射線治療の際、卵巣の部分だけを厚いタングステンで覆い、放射線を遮断して卵巣機能を守る手法だ。

 東大病院では、無菌治療部と放射線科が共同で、3年前からこれまでに3人の患者に実施、うち2人は治療後に月経が戻り、卵巣機能が回復した。だが、残りの1人は白血病が再発した。再発が起きた部位は卵巣ではなく、卵巣に放射線照射をしなかったこととの因果関係は不明だが、同部特任講師の神田善伸さんは「十分に説明した上で慎重に進めたい」と話す。

 白血病専門医らで作る日本造血細胞移植学会は、治療後の不妊に対処するため、生殖医療の最新情報を患者に提供することになった。

 未受精卵の凍結保存を行う施設はまだ少なく、放射線の遮断も東大でしか実施されていない。同学会前会長で岡山大教授の谷本光音さんは「不妊対策について、治療前に主治医に相談してほしい」と話している。(館林牧子)


(2005年7月4日  読売新聞)

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